『愛の処刑』 ①

愛の処刑・1


広い日本家屋の中にひとりたたずむ精悍だがどこかやつれた憂いを感じさせる男。
彼の名は大友。教師である。
彼の家に通う家政婦が夕食を支度してくれたが、箸をつけるどころかろくに目もくれずにいる。
夕食は蠅帳をかぶったまま放置されていた。
彼は苦悩していた。
先日、彼の生徒、田所が肺炎で亡くなった。
体育の授業中ふざけた田所を罰として雨の中に立たせていたのが原因であった。
彼は責任を痛切に感じていた。
同時に自分自身を恐れていた。
田所は美しい少年であった。
大友は田所を愛していた。だが、打ち明けると田所に拒絶されるという思いも常に抱えていた。
その屈折した思いがああまでひどい仕打ちをさせたのではないか。
そのことが大友を苦しめていた。


愛の処刑・10


家政婦もとうに帰った夜更け。玄関で物音がする。
大友が覗くと、そこには土砂降りの中濡れた身体で思い詰めた表情を浮かべる美少年がいた。
彼の名は今林。大友の生徒であった。
大友は田所を愛していたが、今林のことも同様に愛していた。
ただ、愛の質が違っていた。
今林は田所と違ってもし愛を告げても冷笑してやり過ごしてくれそうだと考えていた。
大友は今林を部屋にあげた。
田所のことでやってきたという今林に、大友は教師を辞めるつもりだと告げた。
すると今林は「それでも先生は男ですか!」と一喝した。


愛の処刑・13


「先生は田所くんを愛していたんだ!そうに決まっている!」
まくしたてる今林。
大友はまるで心のつかえがとれたかのように語り始める。
報われない恋の恨みなどではない。田所に軽蔑されるのが怖い。今の自分は抜け殻と同じだ。死んでしまいたいとさえ思っている…。
「先生、責任をとる気はないんですか。田所君の死を償うために先生も死ぬべきではないでしょうか」
いささかの邪智も感じさせぬ表情で今林が言い放つ。
「先生。切腹して下さい」


愛の処刑・16

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